目次人事・労務管理実務相談Q&A


daiya労災に対して使用者はどこまで責任を負うか
 

 先日,当社の従業員Nが労災事故で死亡しました。今回の事故は偶発的なもので,労働基準監督署の調査でも安衛則等法令の違反がなかったことは明白です。そこで,Nの遺族に対し見舞金を支給する旨を伝えたところ,遺族から「労災事故である以上,会社が全面的に責任を負うべきではないか」との申入れを受けました。労災事故が発生した場合,会社はどこまで責任を負うことになるのでしょうか。

ご存じのように,労働災害の防止については,事業者が広範な責任を負うことになっています。安衛法では,事業者は機械等による危険を防止するために必要な措置を講じなければならないこと等が規定されていますが,その具体的な措置の内容は,安衛則その他の関係厚生労働省令において詳細に定められています(これを通 常「危害防止基準」といいます)。
 この危害防止基準に違反した事業者は,6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられることになっており,危害防止基準の遵守は,事業者に課された公法上の責任といえます。
 ご質問によりますと,貴社で発生した労働災害については,事業者に危害防止基準に違反する事実がなかったということですので,この面における刑事責任が追及されることはないでしょう。しかし,事業者に刑事上の責任がないからといって,損害賠償責任を負わなくてよいというわけではありません。労働災害の防止に関しては,民事上の責任として使用者に「安全配慮義務」があるからです。
 わが国の現行法は,労働者に対する使用者の安全配慮義務を明文で規定してはいませんが,学説,判例ともこれを認める考え方が有力になってきています。ですから,もし使用者が安全配慮義務を尽くさなかったことにより労災事故を発生させ,労働者の生命,身体等を害した場合には,債務不履行として損害賠償責任を負うことになるでしょう。
 危害防止基準の遵守と安全配慮義務との関係については,使用者が危害防止基準を遵守している場合であっても,それだけで安全配慮義務を尽くしているとは必ずしもいえません。使用者は,危害防止基準を遵守するのはもちろん,具体的な職場の状況等を十分考慮して,労災事故の防止のために細心の配慮をすべきだからです。特に,新型機器の採用,新原材料の使用,新規施工技術の導入等の場合には,危害防止基準による一般的な規制がないとしても,使用者に高度の安全配慮義務が負わされているといえるでしょう。
 このような観点から,ご質問のケースが使用者の責任に帰すべきものかどうか断定はできませんが,危害防止基準に違反していないというだけでは,損害賠償責任を免れることはできません。


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